癌予防の最近のブログ記事

これから冬の季節ですが、紫外線には気を抜けません。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関は、発癌リスクが特に高いものとして、煙草やアスベスト、X線、太陽光などを上げます。昨夏には、日焼けマシン(タンニングマシン)を追加しました。皮膚癌や眼球の色素細胞にできる癌のリスクが高まるとしています。

ただ、日本セーフティ・タンニング協会は、「日本人のような黄色人種に、紫外線への耐性が低い白色人種のデータが当てはまるとは言い難い」と反論。同協会の長岐俊彦顧問は、「長時間使えば、火傷などのリスクが上がるのは当然。長くても30分程度、次は1日おいて、という使い方を利用者も知って欲しい」と話します。

食べ物に癌を抑える効果があるかどうかを、科学的に調べようという試みも進められています。厚生労働省の研究班(主任研究者、住吉義光・元四国がんセンター病棟部長)は、キノコ類の健康食品に癌を抑制する力があるか調べた臨床試験の結果を纏めました。

四国がんセンターや北海道大、京都大学病院など7施設で実施。早期の前立腺癌で、直ぐ治療を始める必要がない患者74人(平均年齢73.5歳)に、1日4.5g、6ヶ月間、キノコの抽出物から作った食品「AHCC」を食べ続けてもらいました。癌の進行度の指標となる前立腺特異抗原(PSA)でみると、薬と同様の効果があったのは74人の内1人だけ。4ヶ月後にPSAが54%下がったと言います。

また、参加した患者のデータを平均すると、通常右肩上がりに上がっていくPSA値は、ほぼ横這いでした。住吉さんは、「AHCCに抗癌剤のような効果は無い事が分かった。ただ病気の進行が穏やかになる可能性は示唆されるので、更なる検討が必要だ」と話します。この結果は、盛岡市で4月27日から開かれる日本泌尿器科学会で発表されました。

大阪大の伊藤壽記教授(生体機能補完医学)も、化学療法を続けている約50人の癌患者にAHCCを摂取してもらい、抗癌剤の副作用が軽減するかを調べています。

伊藤教授は、「患者は少しでも生活の質を上げたいと考えている。国には、玉石混合の機能性食品を一つ一つきっちり調べ、安全性や有効性を検証する体制の整備が望まれる」と指摘します。

癌を予防する為にどんな事に気を付けて生活をすれば良いのでしょうか。癌を防ぐ効果を謳う食品なども出回る中、臨床研究などの科学的な根拠に基づいているかどうかで見分ける必要があります。

「この食品は、癌予防に効くんでしょうか」。こんな質問を、埼玉県を中心に活動する「がん患者会シャローム」代表の植村めぐみさんは、患者や家族等から何度も受けます。その度に、「科学的な根拠はあるものなんですか?」と同じ質問を返します。

癌予防を謳う様々なサプリメント(補助食品)があります。通常の癌治療以外の健康食品や民間療法は、補完代替療法と言われます。

植村さんは、10年前に癌の治療を受け、現在も再発を防ぐ為に薬を飲み続けています。以前は、癌の再発防止に効果があると聞き、アガリクスや漢方薬などを毎月4万~5万円程買っていました。「患者自身も、何かをしなければいけないという気持ちになる」と、植村さんは振り返ります。そんな気持ちを主治医が抑えてくれました。「癌の進行を抑えたり、再発を防いだりという効果が科学的に証明された健康食品は無いんです」

厚生労働省研究班は、昨年10月、生活習慣と癌予防法について研究成果を纏めました。日本人を対象にした数万から十数万人規模の疫学調査です。

「先ず煙草を止める事」と国立がん研究センターの津金昌一郎がん予防・検診研究センター部長は言います。

喫煙は、肺癌、胃癌、食道癌の発症リスクを確実に上昇させ、肝癌や膵臓癌でもほぼ確実。喫煙者の発癌リスクは、吸わない人に比べて男性で1.6倍、女性で1.3倍高まります。特に肺癌へのリスクは高く、男性で4.4倍、女性は2.8倍に上昇します。癌で死亡した日本人の20~30%は、喫煙が原因とされます。

飲酒もリスクを高めます。大腸癌や食道癌、乳癌など。飲酒量が増えるに従い、リスクは増加していきます。

しかし、一定量を超えなければ心筋梗塞や脳梗塞など、他の病気のリスクを下げる効果があると言います。飲む場合、1日当たり日本酒1合、ビール大瓶1本、焼酎は1合の3分の2、ワインはボトルの3分の1程に。癌予防の為に気を付ける事として、国立がん研究センターは6項目を挙げています。

癌予防の効果を謳う健康食品などを使ってみたい。

そんな時は、「情報を鵜呑みにしない心掛けが必要」と、埼玉医科大の大野智講師は指摘します。例えば、使った人の体験談や専門家のコメントだけで効果をアピールしているものは、信頼性に欠けます。実験データを提示していても、マウスや細胞での実験だけでは科学的根拠としては不十分です。

様々な食品の効果や危険情報などを纏めている国立健康・栄養研究所のサイトも参考になります。

 

国立がん研究センターの
「日本人のためのがん予防法」
喫煙 煙草は吸わない
他人の煙草の煙を出来るだけ避ける
飲酒 飲むなら、節度のある飲酒をする
食事 食事は偏らずバランス良く
食塩の摂取は最小限に
野菜不足、果物不足は避ける
加工肉や赤肉(牛・豚・羊など)は摂り過ぎない
飲食物を熱い状態で摂らない
身体活動 日常生活を活動的に過ごす
体形 成人期での体重を適正な範囲に維持
(太り過ぎない、痩せ過ぎない)
感染 肝炎ウイルス感染の有無を知り、
感染している場合はその治療の措置を取る


[朝日新聞]

癌検診は、質の確保が欠かせません。癌の見落としが多かったり、逆に癌でない人が沢山精密検査を受けていたりすると、検診の意義が問われます。検診の「精度管理」は、受診率の向上策に比べて目立たない取り組みでしたが、その重要性が注目され始めています。

ご多分に漏れず、日本でも癌検診の質にはバラツキがあります。

宮城県は、市町村の癌検診を基準を元に評価し、改善点のアドバイスを市町村に伝えています。平成18年度実施分から全ての評価結果をインターネット上で公表しています。これで取り組みが不十分だった市町村の底上げに成功しました。

評価項目は、検診対象者の名簿を作成しているか、精密検査を受けなかった人に受診を勧めているかなどで、検診の種類毎に23~24項目のチェックリストになっています。厚生労働省の検討会が作ったリストを元にしました。全項目を満たすとA評価、満たない項目が1~4個ならB評価、5~8個はC評価です。

平成18年度に実施した癌検診では、36市町村の中でC評価は8ありましたが、平成19年度はCが零になり、全般にA評価の市町村が増えました。かつてC評価を受けた町の担当者は、「精密検査の受診率が低いなどの問題があった。電話で受診を勧めるなど改善した」と言います。

検診で「精密検査が必要」とされた人が検査を受けなかったら、癌の発見が遅れる可能性がありました。ただ地方の病院は、慢性的な医師不足。医師や技師が検診の研修に時間を割くのが難しい面もあります。

宮城県対がん協会がん検診センターの渋谷大助所長は、「評価して結果を公表する仕組みは、質の向上に役立っている。ただ全国的に、未だ珍しい取り組み。他の都道府県も参考にして欲しい」と言います。

市町村から受託して癌検診を実施している同協会も、質の向上に努めています。検診のX線画像などのデジタル化を進め、コンピューターに蓄積。医師が画像から癌を疑った時、前回の画像を直ぐ取り出して比較出来ます。渋谷所長は、「比較して判断しやすくなり、不必要な精密検査を減らす事が出来た」と言います。

厚労省は平成19年度、「がん検診事業の評価に関する委員会」を開き、報告書を纏めました。当時の調査では、評価のチェックリストを活用している市は、全国の2割程度しかなく、報告書はリストで実態を把握するように求めました。

この委員会のメンバーだった国立がん研究センターの斎藤博検診研究部長は、「宮城県は頑張っているが、全国の自治体にはチェックリストの意義が未だ十分理解されていない。精度管理に力を入れないと質を保てない」と語ります。


市区町村の検診/会社などの職域検診/個人での人間ドックなど、検診の質を見分ける目安は?

日本人間ドック学会では、会員施設の機能評価をネットで公表しています。検診の質などについて、優・良・可の評価を見る事が出来ます。癌検診でX線画像を調べる「読影」に関しては、医師のダブルチェックが実施されていると安心出来ます。

乳癌検診については、NPO法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会が、撮影認定診療放射線技師・医師検診施設画像認定施設の認定をしており、施設名などをネットで公表しています。

 

宮城県市町村の癌検診評価結果
平成18年度実施分
種類 胃癌 子宮癌 肺癌 乳癌 大腸癌
A評価 13 16 11 13 13
B評価 22 20 21 21 22
C評価  
平成19年度実施分
A評価 19 21 17 23 18
B評価 17 15 19 13 18
C評価          


 注:市町村数


[朝日新聞]

肺癌検診は、米国やチェコで行われたRCTで有効性が否定された他、世界の優れた研究を再検証する「コクラン共同計画」や米政府の予防医学作業部会も、このRCTに基づき有効性を示す根拠は不十分としました。日本肺癌学会の平成17年版指針も同じ内容です。

厚労省の肺癌検診指針作りに携わった大阪府立成人病センターの中山富雄疫学予防課長は、海外のRCTは1970年~80年代の研究で現在の医療水準と異なり、根拠として使えないと話します。「複数の症例対照研究で、同じ傾向が出た」とし、有効だという方向性には異論がないと言います。

一方で、日本には専門家が少なく、指針の根拠となった論文の執筆者と指針作成者がほぼ同じで問題がある事は認めています。米国で大規模なRCTが進んでおり平成27年頃結果が出ますが、「有効性無し」だった場合、日本の検診に影響が出るだろうとも話します。

胃癌検診も、米国立がん研究所が、「米国では推奨しない」としています。世界でも胃癌検診が日本や韓国位なのは、患者が多いという事情があります。胃癌の原因となるピロリ菌感染者が多く、塩分の摂取量も多い為です。しかし、ピロリ菌感染者も塩分摂取量も減る傾向で、50代以上は約7割がピロリ菌に感染しているとされるのに対し、40歳以下は1~2割程度。胃癌になる率も死亡率も下がってきています。

北海道大学の浅香正博教授(消化器内科)等は、血液検査でピロリ菌感染や胃粘膜の状態を調べ、リスクが高い人のみ、X線ではなく内視鏡で検査する方法を提唱します。50歳以上を対象に検診し、ピロリ菌感染者は除菌治療後、定期的に内視鏡検査を受ければ、胃癌の死亡率は10年以内に現在の5分の1以下に減ると、浅香教授は試算します。「血液検査ならバリウム法より簡便。除菌治療で予防も期待出来る」

海外では、最近、検診により不必要な精密検査が行われ心理的不安感が増すなど、「検診の不利益」が注目されています。放射線被曝の問題もあります。国は今のところ、胃癌検診も肺癌検診も、不利益より利益の方が上回るという考え方ですが、新たな胃癌検診法の開発や肺癌の米国でのRCTの結果次第では、方針が変わるかもしれません。

但し、結論が出るまでには時間が掛かりそうです。国立がんセンターの斎藤博検診研究部長は、「RCTでの評価が原則だが、多数の質の高い症例対照研究が同じ結果を示せば、一定の科学的根拠となる。ピロリ菌除菌で胃癌死が減る証拠は無く、不利益も懸念される。内視鏡が検診に使えるかも研究段階だ」と指摘します。


胃癌・肺癌検診:

 胃癌検診では、胃を膨らませる発泡剤と、胃の粘膜が見えやすくなるようX線を反射するバリウムという造影剤を事前にのみ、胃にX線を当てながら7~8枚撮影する。

 肺癌検診は、肺全体にX線を当てながら1~2枚撮影する。50歳以上で煙草を多く吸うなど、リスクの高い人には、痰の中に癌細胞が含まれていないかを調べる喀痰検査も併せて実施する。いずれも40歳以上を対象に、年1回実施される。

胃癌、肺癌は日本人が最もなり易い癌で、国も検診を勧めています。しかし、国際的には、この二つの癌検診を実施している国は殆ど無く、検診の有効性を示すデータは、日本発のものしかありません。

新潟大学で予防医療学を教える岡田正彦教授(63歳)は、過去に一度も胃癌や肺癌検診に行った事がありません。「年1回、職場に検診車が訪れ、胃や胸部のX線撮影が行われるが敢えて受けていない」と言い、「がん検診の大罪」という著書もあります。

国は、胃癌、肺癌、大腸癌、乳癌、子宮頸癌の五つの検診指針を作り自治体に実施を求めています。大腸癌、乳癌、子宮頸癌検診は、国際的にも有効性が確認され各国が導入しています。しかし、胃癌は韓国、肺癌はハンガリー位です。

岡田教授は、胃癌も肺癌も、国際的に「検診による死亡率減少」を示すデータが無いのに、科学的根拠のレベルが低い日本の研究をもって、推奨するのはおかしいのではないか。と主張します。

研究の信頼度には、その研究手法によってレベルがあります。最も高いのは「ランダム化比較試験(RCT)」。研究対象になる人を籤引きのように無作為(ランダム)に二つの集団に分け、病気になる率や死亡率などを比較します。
これに次ぐのが「コホート(集団)研究」です。特定の条件で選んだ集団を追跡して調べます。
「症例対照研究」もあります。病気になった集団と、ならなかった集団の過去を遡り、生活習慣の違いなどを比較します。

国の検診指針は、厚生労働省研究班が作りましたが、有効性評価は主に、日本で行われた症例対照研究とコホート研究が根拠として用いられました。症例対照研究は、癌で死亡した集団と、その集団と年齢などが似ている住民を比較し、検診受診者と未受信者の癌死亡率を検証。コホート研究は、ある時点で検診を受けた集団と受けなかった集団の数年後の死亡率を比べました。
いずれも受診した人の方が受けなかった人に比べ、癌で死ぬリスクが30~60%程度低い、という結果でした。

しかし、症例対照研究の検診受診者は、健康に関心が高いから検診を受けたとも考えられます。岡田教授は、健康への関心が高い為、死亡率も低くなった可能性があると指摘します。「生活習慣など他の要因で、非受診者に比べ、癌死亡率が低い可能性がある」。
コホート研究では、研究開始後に検診を受けたかどうかは考慮されていないと言います。

一方で、RCTは、対象者が検診を受けられない場合があると了承してもらう必要があります。山形大学の深尾彰教授(公衆衛生学)は、「既に日本では検診が広く実施され、検診を受ける集団と受けない集団とに分ける事は不可能だ」と限界がある事を認めます。


[朝日新聞]

戸井雅和、京都大学大学院医学研究科 外科学講座乳腺外科学教授

現在、乳癌は非常に増えています。平成12年の時点で、女性の癌のトップとなりました。日本人の乳癌の発生ピークは、概ね50歳ですが、ほぼ全ての年齢層で発生率が増加しています。先ずは乳癌が、国民病の一つになりつつある事を認識して頂く必要があると思います。

欧米では、検診の普及、薬の進歩により、1990年(平成2年)代以降、死亡率が減少しています。しかし日本では残念ながら、死亡率が減少に転じるまでには至っていません。日本は欧米に比べると発生頻度も死亡数も4割程度と低いのですが、ともに急激に右肩上がりで増えているのが問題です。

日本人は元来、欧米人より乳癌になる確率は低いのですが、海外で生まれた日系人の発症率は欧米人とさほど変わりません。子供の頃海外に移住した人の場合、海外で生まれた日系人の半分程の発症率だと言われています。その事からも、乳癌の発症には、人種そのものよりも、環境やライフスタイルが大きく関わっていると考えられます。

また乳癌は臨床で見つかるまでに平均で10年掛かります。シンガポールでは20代の乳癌発生が増えていますが、10代からのライフスタイルがその後の乳癌の発生に影響を与える事も考える必要があるでしょう。

乳癌のリスク因子として一般的に言われているのは、遺伝子異常、女性ホルモン、肥満、運動不足、食事、糖尿病、煙草、アルコール、放射線等です。

拠って乳癌の予防は、これらのリスクを避ける、またはリスクを下げる事となります。例えば、乳癌の大きな原因である女性ホルモン。何らかの理由で卵巣を切除した女性の乳癌リスクは、100分の1になると言われています。女性ホルモンは、乳癌の増殖をサポートするように働くと考えられており、女性ホルモンの受容体に影響を与えるエストロゲン受容体調整薬などの薬剤を投与する事で、乳癌の発症を抑える事が出来るとの研究報告があります。

乳癌予防に於いては、食生活も重要です。日本では味噌汁や納豆、豆腐に含まれるイソフラボンと乳癌の関係の研究が盛んに行われています。イソフラボンの摂取が乳癌の発生を抑える可能性を示唆するデータも出ています。更に青魚に含まれるEPAやDHA、乳酸菌などと乳癌に関する研究も進んでいます。最近では、ビタミンDが乳癌のリスクを減らす可能性があるとの研究報告も出ています。
日本人の乳癌発生率や死亡率は、欧米から比べれば未だ低いレベルにあります。そこには日本人の食生活も大きく関わっている事でしょう。今後も、乳癌予防に於ける食生活の重要性について、疫学的、科学的研究を進め、その関係を解明して、予防に役立てる事が重要です。

大橋靖雄、東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻生物統計学教授

「疫学」は、健康に関する基礎科学で、集団に於ける健康と疾病の状況を計量的に捉える学問です。影響を与える因子と健康との因果関係を調べる事で、病気の予防を目指します。病気の予防に役立つ情報をいかに収集し、解析するかを追求する「疫学」は、健康情報の氾濫する中で正しい情報を見極める為の有効な手段を提供する事になると思います。

調査や研究による観測値には、常に何らかのデータの偏りや誤差が含まれています。例えば以前、「良く運動し、栄養に気を付けて、昼寝をした人は認知症が減る」という研究結果が報道されました。これは、希望者を募って生活指導をした400人の認知症発症率が3.1%だったのに対し、何もしなかった1500人が4.3%だったというものです。しかしこの調査の対象者には、偏りがあります。このようなプロジェクトに参加し、運動出来る事自体、健康で社会性がある訳で、認知症になり難い人だと考えられるからです。また400人と1500人を対象にした調査に於ける3.1%と4.3%の違いは、殆ど誤差の範囲です。

誤差の小さい精密で正確なデータを取るには、対象者を増やしたり、調査を繰り返して平均値を取る必要があります。またデータの偏りを減らす為に、偏らない対象を選んだり、後で述べる「ランダム化」を行う事が大事です。情報を集める際には、先入観やプラセボ(偽薬)効果などを減らす工夫も必要です。

偏りの原因で、気を付けなくてはならないのが疫学の最大の敵である「交絡」です。これは疫学に於ける概念で、原因と結果の関係を調べる時に、原因と関係のある第三の因子が存在し、それが真の因果関係をもって結果を引き起こしているケースです。例えば、「お酒をよく飲む女性程肺癌になる事が多い」という調査結果が出たとしても、その事から直ぐに「お酒が肺癌を引き起こす」と考えてはいけません。実はお酒をよく飲む人は煙草を吸う事も多く、煙草こそが真の原因だったりするからです。

薬や健康食品の評価など、実験が出来る場面では、データの偏りを抑える為に、薬などを投与する患者を確率的に割り付ける「ランダム化試験」を行うのが理想です。技術的あるいは倫理的にこれが難しい場合には、長年にわたって集団を追跡する「コホート研究」や、患者と健康な人を組にして、過去の生活習慣を調べる「ケースコントロール研究」を行います。ランダム化試験の事例としては、乳酸菌の日常的摂取が、膀胱癌再発リスクを半分程度に抑える成果が得られています。

一般の方が健康情報の信頼性を判断するには、その研究が「具体的な研究に基づいているか」「対象は人か」「学会発表でなく論文報告か」「定評のある医学専門誌に掲載されているか」「研究はランダム化試験や大規模なコホート研究か」「複数の研究で示されているか」がチェックポイントです。是非、健康情報を賢く収集、評価し、生活に活かして頂きたいと思います。


交絡:

 疫学に於ける概念。原因と結果の二つの変数の両方に同時に関連する外部変数の為、原因・結果の分析に偏りが生ずる事。

垣添忠生、前国立がん研究センター名誉総長 日本対がん協会会長

昭和56年(1981年)から、「癌」が日本人の死亡原因の1位になりました。現在、日本人は男性で2人に1人、女性で3人に1人が癌になっています。そして、年間30万人を超す人が癌で死亡しています。癌は誰にとっても無縁な病気ではありません。

更に、世界保健機関(WHO)の統計でも癌になる人、癌で亡くなる人、癌を経験した人の数は毎年増え続けており、癌は世界的な課題でもあります。

癌は遺伝子の異常によって発生し、進展する細胞の病気です。細胞核の中にあるDNA上には約2~3万個の遺伝子が乗っていますが、その中の癌遺伝子が活性化したり、癌抑制遺伝子が壊れる事で、正常細胞が癌細胞に変わると考えられています。長い時間をかけて発癌物質や発癌促進物質に曝される事で遺伝子の異常が積み重なり、発生・進展していく慢性の病気です。

日本では、胃癌と子宮癌は減少していますが、肺癌や大腸癌、乳癌が増加しています。これは、高齢者の増加や食事などの生活習慣によるものと考えられています。癌の主な原因としては、「煙草」「食事」「感染症」等が上げられます。その発生には、生活習慣や生活環境が非常に深く関わっています。そこで我々医師が、癌予防の為に皆さんにお願いしているのは、「煙草は吸わない、吸っていたら止める」「アルコールは控えめに」「運動をして肥満を防ぐ」「塩分を控えて、野菜や果物を多く食べる」といった事です。

また原因を除けば癌が防げるといった意味で、感染症対策は国の取り組みとして非常に重要です。例えば、早期胃癌患者の内視鏡切除治療後にヘリコバクターピロリ菌を除菌する事で、二次胃癌の発生を3分の1にできたとの報告があります。胃癌患者へのヘリコバクターピロリ菌の除菌は、保険診療の対象にすべきだと考えます。また思春期の女児にワクチンを接種すれば、子宮頸癌の発生も死亡も7割程減らせるというデータがあります。ワクチンと検診を組み合わせれば、理論的には子宮頸癌をゼロにする事も可能なのです。

癌は、私達の体の中に分からないうちに発生し、進展します。初期のうちは無症状です。症状が出た時には、運が悪いと進行癌だったりします。国立がん研究センター中央病院では、年間約400人近くが死亡退院します。その7割が癌発見時には進行癌であり、その多くの方が検診を一度も受けていなかったという事実があります。

癌で死ぬ人を減らす上で、検診は非常に有効です。しかし日本は、先進国の中でも検診受診率が非常に低いのが残念です。癌検診の受診率の目標を当面50%とした上で、検診の精度を高めていく事が大事だと考えます。


[朝日新聞]

8月31日、厚生労働省は、若い女性を中心に増加している子宮頸癌を予防するワクチンについて、承認に向けた手続きに入りました。厚労省の薬事・食品衛生審議会部会で審議、了承されたワクチンは、既に96ヶ国で使用されています。

9月下旬に上部組織である薬事分科会の審議で了承が得られれば、10月にも国内では初めてとなるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンとして正式に承認され、早ければ年内にも発売される見通しです。

このワクチンは、製薬会社のグラクソ・スミスクライン(GSK)が承認申請していた「サーバリックス」。

子宮頸癌は子宮の入り口付近の頸部にできる癌で、多くは、性行為によるHPVの感染が原因とみられています。

厚労省などによると、HPVは100種類以上の型があり、十数種類が癌を誘発しますが、今回のワクチンはこの内、最も頻度が高い16型、18型という2種類に対する感染予防に有効性が認められており、10歳以上の女性が接種対象となります。

日本では、毎年約7千人が新たに子宮頸癌と診断され、約2500人が亡くなっており、専門家や患者団体から早期承認を求める声が強く、厚労省は優先審査の対象に指定し、海外の臨床試験データの審査と国内での臨床試験を並行して進めていました。

また、子宮頸癌は30代後半から40代に多いとされていますが、最近では低年齢化が進んでいます。


[朝日新聞]

生活習慣による癌のリスク

癌のリスクと生活習慣(厚生労働省研究班調べ)
  癌の部位
確実 ほぼ確実






喫煙 肺 胃 食道 肝臓 膵臓
飲酒 肝臓 大腸 食道  
肥満 乳(閉経後)
*食道 *膵臓
大腸
塩分  
肉食 *大腸  
加工肉 *大腸  






運動   大腸 *乳(閉経後)
野菜・果物   食道
*肺(果物) *胃
授乳  
珈琲   肝臓
牛乳   *大腸

(*)は世界癌研究基金の主な指摘


[朝日新聞]

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