肺癌検診は、米国やチェコで行われたRCTで有効性が否定された他、世界の優れた研究を再検証する「コクラン共同計画」や米政府の予防医学作業部会も、このRCTに基づき有効性を示す根拠は不十分としました。日本肺癌学会の平成17年版指針も同じ内容です。
厚労省の肺癌検診指針作りに携わった大阪府立成人病センターの中山富雄疫学予防課長は、海外のRCTは1970年~80年代の研究で現在の医療水準と異なり、根拠として使えないと話します。「複数の症例対照研究で、同じ傾向が出た」とし、有効だという方向性には異論がないと言います。
一方で、日本には専門家が少なく、指針の根拠となった論文の執筆者と指針作成者がほぼ同じで問題がある事は認めています。米国で大規模なRCTが進んでおり平成27年頃結果が出ますが、「有効性無し」だった場合、日本の検診に影響が出るだろうとも話します。
胃癌検診も、米国立がん研究所が、「米国では推奨しない」としています。世界でも胃癌検診が日本や韓国位なのは、患者が多いという事情があります。胃癌の原因となるピロリ菌感染者が多く、塩分の摂取量も多い為です。しかし、ピロリ菌感染者も塩分摂取量も減る傾向で、50代以上は約7割がピロリ菌に感染しているとされるのに対し、40歳以下は1~2割程度。胃癌になる率も死亡率も下がってきています。
北海道大学の浅香正博教授(消化器内科)等は、血液検査でピロリ菌感染や胃粘膜の状態を調べ、リスクが高い人のみ、X線ではなく内視鏡で検査する方法を提唱します。50歳以上を対象に検診し、ピロリ菌感染者は除菌治療後、定期的に内視鏡検査を受ければ、胃癌の死亡率は10年以内に現在の5分の1以下に減ると、浅香教授は試算します。「血液検査ならバリウム法より簡便。除菌治療で予防も期待出来る」
海外では、最近、検診により不必要な精密検査が行われ心理的不安感が増すなど、「検診の不利益」が注目されています。放射線被曝の問題もあります。国は今のところ、胃癌検診も肺癌検診も、不利益より利益の方が上回るという考え方ですが、新たな胃癌検診法の開発や肺癌の米国でのRCTの結果次第では、方針が変わるかもしれません。
但し、結論が出るまでには時間が掛かりそうです。国立がんセンターの斎藤博検診研究部長は、「RCTでの評価が原則だが、多数の質の高い症例対照研究が同じ結果を示せば、一定の科学的根拠となる。ピロリ菌除菌で胃癌死が減る証拠は無く、不利益も懸念される。内視鏡が検診に使えるかも研究段階だ」と指摘します。
胃癌・肺癌検診:
胃癌検診では、胃を膨らませる発泡剤と、胃の粘膜が見えやすくなるようX線を反射するバリウムという造影剤を事前にのみ、胃にX線を当てながら7~8枚撮影する。
肺癌検診は、肺全体にX線を当てながら1~2枚撮影する。50歳以上で煙草を多く吸うなど、リスクの高い人には、痰の中に癌細胞が含まれていないかを調べる喀痰検査も併せて実施する。いずれも40歳以上を対象に、年1回実施される。