癌予防・検診 - 胃癌、肺癌検診に効果はあるのか

胃癌、肺癌は日本人が最もなり易い癌で、国も検診を勧めています。しかし、国際的には、この二つの癌検診を実施している国は殆ど無く、検診の有効性を示すデータは、日本発のものしかありません。

新潟大学で予防医療学を教える岡田正彦教授(63歳)は、過去に一度も胃癌や肺癌検診に行った事がありません。「年1回、職場に検診車が訪れ、胃や胸部のX線撮影が行われるが敢えて受けていない」と言い、「がん検診の大罪」という著書もあります。

国は、胃癌、肺癌、大腸癌、乳癌、子宮頸癌の五つの検診指針を作り自治体に実施を求めています。大腸癌、乳癌、子宮頸癌検診は、国際的にも有効性が確認され各国が導入しています。しかし、胃癌は韓国、肺癌はハンガリー位です。

岡田教授は、胃癌も肺癌も、国際的に「検診による死亡率減少」を示すデータが無いのに、科学的根拠のレベルが低い日本の研究をもって、推奨するのはおかしいのではないか。と主張します。

研究の信頼度には、その研究手法によってレベルがあります。最も高いのは「ランダム化比較試験(RCT)」。研究対象になる人を籤引きのように無作為(ランダム)に二つの集団に分け、病気になる率や死亡率などを比較します。
これに次ぐのが「コホート(集団)研究」です。特定の条件で選んだ集団を追跡して調べます。
「症例対照研究」もあります。病気になった集団と、ならなかった集団の過去を遡り、生活習慣の違いなどを比較します。

国の検診指針は、厚生労働省研究班が作りましたが、有効性評価は主に、日本で行われた症例対照研究とコホート研究が根拠として用いられました。症例対照研究は、癌で死亡した集団と、その集団と年齢などが似ている住民を比較し、検診受診者と未受信者の癌死亡率を検証。コホート研究は、ある時点で検診を受けた集団と受けなかった集団の数年後の死亡率を比べました。
いずれも受診した人の方が受けなかった人に比べ、癌で死ぬリスクが30~60%程度低い、という結果でした。

しかし、症例対照研究の検診受診者は、健康に関心が高いから検診を受けたとも考えられます。岡田教授は、健康への関心が高い為、死亡率も低くなった可能性があると指摘します。「生活習慣など他の要因で、非受診者に比べ、癌死亡率が低い可能性がある」。
コホート研究では、研究開始後に検診を受けたかどうかは考慮されていないと言います。

一方で、RCTは、対象者が検診を受けられない場合があると了承してもらう必要があります。山形大学の深尾彰教授(公衆衛生学)は、「既に日本では検診が広く実施され、検診を受ける集団と受けない集団とに分ける事は不可能だ」と限界がある事を認めます。


[朝日新聞]