子宮頸癌 - 原因ウイルスの感染検査広がる兆し

子宮頸癌の引き金になるウイルスに感染しているかを調べる新しい検査方法を検診に取り入れる自治体が出ています。検査で早く細胞の異常が見つけられますが、感染が全て癌に繋がる訳ではありません。検査結果をどう捉えて良いか悩まないように、事前に検査について良く理解しておく必要があります。

★早期に異常発見

島根県では、「20歳になったら、子宮頸癌検診を受けましょう」という小冊子を作成し、住民に配布しています。松江市や出雲市など全市町村の約半数に当たる10自治体が今年度、検診にHPV(ヒトパピローマウイルス)検査の併用を始めました。従来は子宮の入り口の粘膜をブラシなどで擦り取り、細胞に異常がないかを顕微鏡で調べる「細胞診」と呼ばれる検査を導入していました。HPV検査は、この細胞に癌に繋がるウイルスが感染しているかどうかを確かめるものです。

同県は、平成19年~20年度にモデル事業として併用検診を始め、普及を図ってきました。「検診受診者が高齢者に偏っていたのが最大の理由。HPVの感染率が高く、最も受けて欲しい20~30代に関心を持ってもらいたっかた」と県立中央病院の岩成治母性小児診療部長は話します。

同県では20~30代の患者が3分の1以上を占めますが、受診率は一桁台でした。これが平成19年度は、前年度の2倍以上増えました。子宮頸癌は、癌になる前の細胞の異常がある「前癌状態」から、「超早期癌」を経て、より進んだ「浸潤癌」になります。超早期癌の患者数も若い受信者が増えた為、それまでは50人台でしたが、平成21年は100人に増えました。

超早期癌なら、癌の部分切除で済み、将来的に妊娠も出来ます。浸潤癌は子宮などを摘出する場合が多いのです。

厚生労働省によると、平成21年1月現在で、HPV検査を導入していたのは約1800自治体(当時)の内36市町村。未だ限られますが、今年度から徳島県鳴門市が費用を一部助成するなど広がる兆しがあります。自治医大さいたま医療センターの今野良教授は、日本対がん協会と協力し岩手や富山、福岡、沖縄で1万人に検査を受けてもらう研究を始めました。今野さんは、「子宮頸癌は予防出来る。早めの治療に繋げる事が重要だ」と話します。


★9割は自然消滅

HPVは、性交渉でうつります。性交渉のある女性の約8割が一生涯で一度は感染すると言われますが、通常は感染しても免疫によりウイルスは消えます。ただ10%程は、感染が続き癌になります。国は指針で、20歳以上は2年に1度、細胞診による検診を受けるよう勧めています。HPV検査は、細胞が変化する出発点となる感染の有無を調べるので、前癌状態を見付け易いのです。細胞診と併用すれば見落としも減り、前癌状態をほぼ100%見つけられます。両方陰性なら、検査間隔を3年に延ばせるという報告もあります。

ただ、前癌状態が必ず癌になる訳ではありません。前癌状態でも異常な細胞が未だ限られている状態から、癌になるのは数%。進行も数年単位でゆっくり進む為、経過観察する場合が多いのです。特に20代は他の世代より性交渉の機会が多く、感染率は高くなります。この為前癌状態だと判断される場合が多く、経過観察中に「癌ではないか」と不安を抱えたり、必要ないのに切除などの治療に繋がったりする恐れがあります。若い世代でHPV検査を受けようとするなら、先ず専門医に相談し、こうした点を知るのが重要です。


★有効性証明はこれから

HPV検査により死亡率が下がるかどうかは、未だ科学的に証明されていません。欧州を中心に有効かどうかを調べる大規模臨床試験が行われています。厚労省研究班は、平成21年、「HPV検査は住民検診としては勧めない」とする指針を纏めました。検診に導入する自治体は、そうした事情も住民に説明する必要があります。

指針作りに関わった慶応大の青木大輔教授(産婦人科)は、「HPV検査はかなり期待が持てるが、現段階では検診として安易に導入すべきではない。データを取り纏められるよう計画し、先ず試験的に取り組む必要がある」と指摘します。

 

子宮頸癌になるまで
感染 HPVに感染
自然に治る場合も
前癌状態 感染で変化した細胞が
限定される場合は経過観察
超早期癌
(ステージ0)
癌の部分だけ切除する手術
妊娠も出来る
浸潤癌
(ステージ1~4)
子宮を全摘出する手術など


[朝日新聞]