癌予防 - 検診による早期発見が死亡者を減らす

垣添忠生、前国立がん研究センター名誉総長 日本対がん協会会長

昭和56年(1981年)から、「癌」が日本人の死亡原因の1位になりました。現在、日本人は男性で2人に1人、女性で3人に1人が癌になっています。そして、年間30万人を超す人が癌で死亡しています。癌は誰にとっても無縁な病気ではありません。

更に、世界保健機関(WHO)の統計でも癌になる人、癌で亡くなる人、癌を経験した人の数は毎年増え続けており、癌は世界的な課題でもあります。

癌は遺伝子の異常によって発生し、進展する細胞の病気です。細胞核の中にあるDNA上には約2~3万個の遺伝子が乗っていますが、その中の癌遺伝子が活性化したり、癌抑制遺伝子が壊れる事で、正常細胞が癌細胞に変わると考えられています。長い時間をかけて発癌物質や発癌促進物質に曝される事で遺伝子の異常が積み重なり、発生・進展していく慢性の病気です。

日本では、胃癌と子宮癌は減少していますが、肺癌や大腸癌、乳癌が増加しています。これは、高齢者の増加や食事などの生活習慣によるものと考えられています。癌の主な原因としては、「煙草」「食事」「感染症」等が上げられます。その発生には、生活習慣や生活環境が非常に深く関わっています。そこで我々医師が、癌予防の為に皆さんにお願いしているのは、「煙草は吸わない、吸っていたら止める」「アルコールは控えめに」「運動をして肥満を防ぐ」「塩分を控えて、野菜や果物を多く食べる」といった事です。

また原因を除けば癌が防げるといった意味で、感染症対策は国の取り組みとして非常に重要です。例えば、早期胃癌患者の内視鏡切除治療後にヘリコバクターピロリ菌を除菌する事で、二次胃癌の発生を3分の1にできたとの報告があります。胃癌患者へのヘリコバクターピロリ菌の除菌は、保険診療の対象にすべきだと考えます。また思春期の女児にワクチンを接種すれば、子宮頸癌の発生も死亡も7割程減らせるというデータがあります。ワクチンと検診を組み合わせれば、理論的には子宮頸癌をゼロにする事も可能なのです。

癌は、私達の体の中に分からないうちに発生し、進展します。初期のうちは無症状です。症状が出た時には、運が悪いと進行癌だったりします。国立がん研究センター中央病院では、年間約400人近くが死亡退院します。その7割が癌発見時には進行癌であり、その多くの方が検診を一度も受けていなかったという事実があります。

癌で死ぬ人を減らす上で、検診は非常に有効です。しかし日本は、先進国の中でも検診受診率が非常に低いのが残念です。癌検診の受診率の目標を当面50%とした上で、検診の精度を高めていく事が大事だと考えます。


[朝日新聞]