○癌幹細胞は、抗癌剤や放射線にめっぽう強い。
治療して、癌が死滅したように見えても、数年後に再発してしまう事がありますが、幹細胞が残っていて、再発の原因となるらしいのです。
「薬や放射線で死滅出来るのは部下の癌細胞だけで、指揮官の幹細胞はしぶとく生き延びてしまうと考えられている」と慶応大の佐谷秀行教授は説明します。再発は偶然に起こったのではなく、生物学的な必然だったという考え方です。
寿命の長い幹細胞の分裂サイクルはゆっくりで、その生存を支える細胞などに囲まれた隠れ家のような場所で守られているのだと言います。
元凶が幹細胞ならば、治療は幹細胞を狙い撃ちすれば良い。こんな新しい治療法を探る研究が始まっています。東京医科歯科大の田賀哲也教授は「世界でも注目分野に成長してきた」と言います。
米国や日本癌学会で、2005年頃から、癌幹細胞をテーマにしたシンポジウムが開かれるようになりました。研究論文も2003年は世界で数本しかありませんでしたが、08年は約500本に増えたと言います。
研究者達が考えている治療の戦略の一つは、癌幹細胞の表面だけにある蛋白質を探して、それを直接攻撃する方法です。生き延びさせている隠れ家をなくしたり、そこから追い出したりする方法なども試みられています。
東京大の宮園浩平教授等は、治療が難しい脳腫瘍の幹細胞を標的にした治療法の開発を目指しています。幹細胞の能力を維持する鍵となる物質を探し出し、その働きを妨げる戦略を描きます。
「癌幹細胞としての能力を奪って、普通の癌細胞に変えてしまう方法」と言います。部下の細胞だけになってしまえば、後は抗癌剤などでやっつけられます。
○癌幹細胞は、未だ謎が多い。
最初の1個はどう生まれるのか、全ての癌に幹細胞があるのかと言った基本的な仕組みの解明もこれからです。しかし、宮園さんは「幹細胞の理解を深めて、上手く手懐ける事が出来れば、癌の根絶という人類の悲願も夢ではないと考えている」と期待しています。