癌根絶へ、癌幹細胞狙い撃ち

国民の死亡原因の1位を占める「癌」。この異常に増え続ける細胞の塊の中に、とりわけ増殖能力の高い細胞が見つかりました。これが「指揮官」となり、「部下」の癌細胞を増やしているらしいのです。

「癌幹細胞」と呼ばれるこの指揮官を狙い撃ち出来れば、夢の癌根絶に繋がると期待されています。

癌は、遺伝子の変異が重なって制御が利かなくなり、異常に増え続けてしまう細胞の塊です。臓器に侵入したり、遠くに転移したりします。悪性の分泌物を出し、正常な細胞の栄養を奪い、大きくなって臓器を圧迫、死に至らしめます。

癌の治療は、こうした細胞の塊を「みんな同じ悪者」と見なして除去することを目標とします。しかし、塊が全て同じではない事が分かってきました。
九州大の赤司浩一教授は「一部の細胞だけが高い増殖能力を持ち、癌細胞を作り続けていることが明らかになってきた」と話します。この一部の細胞が「癌幹細胞」です。「指揮官」として、「部下」の癌細胞を沢山作るというシナリオです。

幹細胞は、1本の幹から枝葉が広がるように子孫を増やす「種」のような細胞です。正常な幹細胞は体の様々な場所にあり、自身のコピー細胞と、それぞれの組織で皮膚や肝臓など枝葉に当たる細胞を作り出します。

このお陰で、例えば細胞が太陽の紫外線や発癌物質によって傷ついても、新しい細胞ができて入れ替えられると言います。
癌幹細胞は、正常な幹細胞や、それに近い細胞の遺伝子に幾つもの変化が起こってできると考えられています。

幹細胞が癌にも存在するという予想は、1950年代頃からありましたが、有力な証拠が見つかったのは1997年。細胞を調べる技術が進んで、カナダの研究チームが、血液の癌である白血病の細胞から見つけました。2003年には、乳癌、その後、脳腫瘍や大腸癌などでも報告が相次ぎました。

癌幹細胞の特徴は、高い増殖能力です。

赤司さん達は、ヒトの白血病の細胞を取り出し、癌幹細胞が入っている細胞群と入らない細胞群に分けて、マウスに移植し、癌が出来るかどうかを調べました。すると、幹細胞が入っていない細胞は、約100万個移植しても白血病にはならなかったのに対し、幹細胞を含む細胞では、1000個程移植しただけで、癌を発症しました。


[朝日新聞]