肝癌の最近のブログ記事

画像診断技術の進歩で、ミラノ基準ができた当時は見えなかった小さな癌まで見えるようになりました。京都大の上本伸二教授は、「癌の数は以前より多く診断されがち」と、大きさや数での規定は限界が出てきたとも指摘します。

現在、京都大以外の施設でも、独自の基準が開発されています。上本さんは、「腫瘍マーカーで、悪性度の高い癌を除外する事に繋がる」と新基準の意義を話します。

生体肝移植手術では、移植患者は癌が生じた肝臓を取り出し、提供者の肝臓を植えます。手術では提供者の肝臓の一部、または半分程度を摘出します。肝臓は再生力が強く患者の体内で大きくなります。

成人から成人への移植の場合、右葉と呼ばれる肝臓の大きな部分を切除しますが、左葉の場合もあります。成人から小児への移植は、成人の肝臓の左葉の一部を植えます。

国内初の生体肝移植は、平成元年に島根医科大で胆道閉鎖症の1歳の男児に対して行われました。当初は、胆道閉鎖症などの子供の為に、親が肝臓の一部を提供するのが殆どでした。

その後、技術の向上や免疫抑制の開発などが進み、成人間の移植も広がりました。平成10年から保険適応にもなりました。

対象となる病気は、大人ではB型、C型肝炎ウイルスなどによる肝硬変、硬化性胆管炎などの胆汁鬱滞性肝硬変、劇症肝炎などが多いようです。癌も3割位を占めると見られています。

小児では、胆道閉鎖症などがあります。提供者と血液型が合わなくても、免疫抑制剤や手術方法の開発により、今では血液型が合っている場合と同じ程度の生存率が得られるまでになりました。

生体肝移植全体では、患者の1年後の生存率は85%、5年後の生存率は75%と良好で、有効な治療法として確立されたと言えます。

C型肝炎ウイルスによる症例では、移植後もほぼ全てでウイルスの感染が避けられません。この為、高い確率で肝炎の再発があり、手術後の予防も含め、早期にウイルスを抑える治療が重要となります。また、肝癌への移植後に、癌が再発した場合には、その生存率は非常に低くなります。

朝日大学村上記念病院(岐阜市)の江川裕人外科教授は、「術後間もない時期の管理が良くなり、5年後の生存率は確かに良くなった。しかし、今後は5年目以降の長期的な経過を良くする事が課題となっている」と話します。


脳死肝移植と生体肝移植:

 平成9年に日本で脳死による移植を認める法律が施行されてから、昨年までに脳死肝移植は63例に留まる。日本は親子や夫婦などの間の生体肝移植が主流だ。いつ現れるか分からない脳死の例を待つのに比べ、計画的に手術を進める事が出来る。
 一方で、肝臓の摘出などによる合併症など提供者に危険が伴う。健康な人の体にメスを入れる倫理問題もある。順天堂大学静岡病院の市田隆文教授は「移植が上手くいかなかった時の提供者の精神的なショックへの対応も課題」と言う。

肝癌 - 生体肝移植、移植の垣根低く

健康な家族から肝臓の一部を提供してもらう生体肝移植が日本で始まって20年になります。症例は既に5千件を超え、移植を受ける対象も広がっていますが、再発の恐れがある肝癌患者では、適応基準の見直しが進んでいます。

「移植を受けた事で、それまで沈みがちだった気持ちも前向きになった」。2年前に生体肝移植を受けた滋賀県の女性(60歳)はこう話し、昨年11月の娘の出産を楽しみにしていました。

女性は、平成19年8月、京都大学病院で娘から肝臓の提供を受けました。平成15年にC型肝炎と分かり肝硬変が悪化、肝癌にもなり、医師から「移植の他に助かる道はない」と言われました。何も考えられない自分に代わって、娘が提供を申し出ました。

「お母さんには、未だやる事が残っているでしょ」。今、肝癌の再発はありません。C型肝炎ウイルスも消えました。

ただ、最初は、迷いもありました。「自分の条件が、基準から外れていたので、大丈夫なのか不安もあった」と言います。

肝癌に対して生体肝移植をするかどうかは「ミラノ基準」と呼ばれる世界基準を基にします。基準では、「癌は5cm以下が一つ、あるいは3cm以下が3個以内」という状態でなければ移植出来ません。

ところが、女性の癌は、大きさが4.9cmと1.2cmの二つで、基準外でした。

幸い、移植経験の豊富な京都大が、ミラノ基準から外れた患者も移植の対象にしようと、独自基準(京都基準)を作った年でした。主治医の海道利実助教の説明に、納得して手術を受けたと言います。

ミラノ基準は、平成8年に癌患者への生体肝移植の適応基準として、イタリア・ミラノ大学の研究者が発表しました。平成16年からは日本の保険適用の基準として用いられています。脳死移植が主流の欧州で、限られた移植の機械を生かす為、再発の可能性が少ない症例に絞って適用すべきだ、という考えが基準の下地にあります。基になった海外の移植データは、4年後の生存率が75%。

京都大学肝胆膵移植外科は、平成11年2月から18年12月に実施した肝癌の生体肝移植136例を調べました。ミラノ基準を満たした74例の5年後の再発率は9%でしたが、基準外の62例は33%と高くなりました。

日本人でもミラノ基準は妥当だと裏付ける結果でしたが、海道さん等は更に、基準外で再発した例と、再発しなかった例を分析。腫瘍の大きさや数だけでなく、悪性度が再発に関係している事を突き止めました。この事が京都基準作りに繋がりました。

京都基準は、「PIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)」と呼ばれる、肝細胞癌で特異的に上昇する血液凝固因子の数値を見る腫瘍マーカーの検査値を盛り込みました。癌の大きさが5cm未満という点ではミラノ基準と同じですが、個数を10個以内と増やし、更に「PIVKA-Ⅱ」が一定の値以下である事を条件にしています。

京都基準を満たした場合の5年生存率は86%、再発率は5%でした。基準を作った平成19年以降の36例でも再発は1例のみで、成績は良好です。

 

肝癌に対する肝臓移植の主な適応基準
ミラノ基準 5cm以内の腫瘍が1個、
または3cm以内が3個以下
UCSF(米カリフォルニア大
サンフランシスコ校)基準
6.5cm以内の腫瘍が1個、
または合計8cm以下の腫瘍が3個以下
京都大学 5cm未満の腫瘍が10個以下、
かつPIVKA-Ⅱ400mAU/ml以下
東京大学 5cm以内の腫瘍が5個以下


[朝日新聞]

医師等による肝臓内視鏡外科研究会によると、平成20年12月までに腹腔鏡による手術を受けた全国の患者837人の内、大量出血などで通常の開腹手術に途中から変更したのは2.2%。出血や感染症などによる術後の合併症は9%でした。

東邦大学医療センター大森病院の金子弘真教授は、平成5年に腹腔鏡手術を始めました。「患部を拡大して見る事が出来る。出血量や合併症も少ない事が分かってきた。患者の体に負担が少ない医療が保険適用で広まれば」と期待します。

しかし、必ずしも安全が完全に約束されているとは言えません。国立がん研究センターがん対策情報センターによると、肝癌の手術全体の死亡率は、1~2%とされます。腹腔鏡は新しい技術で、医師の力量が問われるだけに、保険適用に慎重な意見もあります。

肝癌治療が専門の川崎誠治順天堂大教授は、「経験豊富な施設は問題ないだろう。ただ、経験の浅い医師と医療機関が準備不足のまま取り組んで事故を起こす事を懸念する」と話します。

平成14年に、東京慈恵会医大付属青戸病院の患者死亡事故は、前立腺癌の腹腔鏡手術で起こりました。

東京地裁は、医師の経験の浅さや準備不足を指摘し、業務上過失致死罪に問われた3医師に有罪判決を下しています。こうした経緯を踏まえ、厚生労働省は今年4月からの保険適用の対象について、先進医療と同様に、左葉の「外側区域切除」と「部分切除」に限りました。

肝臓全体の7割を占める右葉の切除についても、金子教授等は実施しています。しかし、より大きく切除する為、より高い技術を必要とするとして保険適用の対象にはしませんでした。

また、腹腔鏡手術で10例以上の経験がある医師がいる事や、消化器外科医が3人以上いる事も保険適用の施設条件として求めました。「安全な医療として普及させる為必要な措置」と厚労省医療課の担当者は話しています。


肝癌の治療:

 主なものに、①手術による治療、②体の外から長い針を刺して、針の先に発生させたラジオ波で癌細胞を焼くなどする局所療法、③癌に栄養を運ぶ血管を塞いで癌を兵糧攻めにする肝動脈塞栓療法の3種類がある。
 どれを選ぶかは、肝機能の良し悪しや癌の数、大きさを基に決める。
 東邦大学医療センター大森病院の金子教授によると、同病院の場合、手術治療の内35~40%が腹腔鏡手術。保険適用の対象で3割負担の人の場合は、自己負担は15万~18万円になるという。

 

肝癌治療の方法
肝機能の状態 A、B
癌の数 1個 2、3個 4個以上
癌の大きさ 3cm以内 3cm超
治療方法 手術、
局所療法
手術、
塞栓療法
塞栓療法
など
移植、
緩和ケア
など
  腹腔鏡による手術の対象  

  AからCの順で障害が強い

肝癌の治療で、お腹に開けた小さな穴から入れたカメラや器具で癌を切る腹腔鏡手術が注目されています。血管が複雑に走る肝臓は安全面から、お腹を大きく開けてよく見ながら手術するのが一般的でした。
腹腔鏡手術は、傷が小さく患者の負担が少ないのが魅力で、今年4月から一部が保険適用されました。器具の開発が普及を促しましたが、技術力が問われるだけに、実績を確かめて慎重に病院を選ぶ必要があります。

東京都内の40代の女性は、一昨年に、肝内胆管癌で腹腔鏡手術を受けました。手術から11日目に退院。その2ヶ月後には、スポーツジム通いも出来るようになりました。今は検査値も落ち着いていると言います。お腹の傷も「想像以上に小さかった」と喜びます。

女性は健康診断で受けた肝臓の検査で異常が見つかり、精密検査で2cm程の肝内胆管癌と分かりました。医師は、肝臓の一部を切り取る手術を受けるよう勧めました。

女性は手術が必要だと納得はしましたが、「ボディービルが趣味で、お腹の筋肉を大きく切る事に抵抗があった」と言います。悩みながらインターネットで調べる内に、腹腔鏡手術があるのを知りました。

国内有数の実績がある岩手医大を受診。途中で通常の外科手術に変更する場合がある事を説明された上で入院し、肝臓の左葉と胆管を切除しました。

腹腔鏡手術は、お腹を少し切って開けた複数の穴から管を入れてワイヤの先についたカメラや切除器具で肝臓を切除します。お腹に開けるのは1ヶ所が5mm~1cm程で、3~5ヶ所。中の様子を映し出すモニターの画面を見ながら医師が遠隔操作します。

女性が受けたのは、「腹腔鏡補助下手術」。穴の他に、器具の動きを医師が目で確かめる為約7cm切りましたが、それでも15~20cmを3ヶ所切るような通常の手術より傷は小さく済みました。

また、癌が大きいと、切除する肝臓も大きくなり、取り出す為に7cm程の傷跡が残る場合もあります。執刀した若林剛医師は、「女性にとって体の傷は大きな悩み。腹腔鏡手術はそうした悩みに応えられる」と話します。

腹腔鏡手術は、モニターの映像を頼りに、腹腔内という狭い空間で器具を動かす為、大量出血の対応などでは高い技量が求められます。

更に肝臓には、静脈の一種で「門脈」と呼ばれる独特の血管が巡っています。その為長年、肝臓を切る際は出血に備え、お腹を大きく切って開けて医師がよく見えるようにすべきだとされてきました。

そうした中、平成12年に左葉の「外側区域切除」と、それより小さく癌を切る「部分切除」が、入院や検査などは健康保険でカバー出来る先進医療制度に認められました。止血器具も進歩。九州大、新潟大、大阪大、広島大、群馬大、琉球大など、13施設に先進医療の取り組みが拡がり、手術自体への保険適用に至りました。


[朝日新聞]

ソラフェニブで癌細胞を狙い撃ち

癌治療の最先端では、ソラフェニブ(商品名ネクサバール)のように、癌細胞を狙い撃ちする「分子標的薬」の開発が盛んです。従来の抗癌剤の多くは、激しく増殖している細胞を攻撃します。その為体内で増殖が盛んな「毛根」や「骨髄」なども攻撃してしまう副作用がありました。

分子標的薬は、それぞれの癌細胞が持つ特異な「分子」を狙うため、他の細胞への影響が少ない。既に「白血病」や「リンパ腫」、「肺癌」などで使われています。

ソラフェニブには大きく二つの作用があります。一つは血管を新たに作る働きを止める事。癌細胞は激しく増殖するので、栄養を取り込む補給路の血管を作ろうとします。その作業を止めてしまう「兵糧攻め」です。もう一つは、「増えろ」という信号を邪魔して、増殖を阻害する作用です。

神戸大の南博信教授(腫瘍内科)によると、分子標的薬は、癌細胞の遺伝子変異や患者の個人差などで効果にばらつきがあると言います。事前の検査で効果的な薬を選ぶ事も大切です。

南教授は、「分子標的薬は出てきたばかりだが、将来的には殆どの腫瘍で従来の薬より効果が期待できるのではないか」と話します。

分子標的薬でも副作用はゼロではありません。ソラフェニブでは手足の皮膚に水泡やひび割れが出たり、血圧が高くなったりします。下痢やだるさなどもあります。副作用が出た場合は、薬を飲む頻度を抑える事でコントロールします。

だが、治りたい一心で、副作用が出ても薬を飲み続ける患者もいます。手足のひび割れで歩けなくなる人もいます。

国立がんセンター東病院では、2008年末から医師や薬剤師等約20人で副作用を抑える方策を練っています。薬剤部の船崎秀樹さんは、「自宅で服用し、新しい薬のため、どんな事が起きるか分からない面もある」と言います。チームでは、自宅に帰った患者に定期的に電話を入れて、様子を見ると言います。

同センター中央病院肝胆膵内科の奥坂拓志医長は、「この薬の登場で、治療が入院から外来へと変わり、どうしても患者さんとの触れ合いが少なくなる。その失った部分をどうカバーするかが今後、大事になる」と話しています。

国内の肝細胞癌の新規患者は、年間で推定3万5千~4万人。腫瘍の大きさや数などによって推奨される治療法が変わります。腫瘍の数が少なく小さい時は、切除手術や局所療法が選ばれます。

局所療法は、腫瘍にラジオ波やマイクロ波を当てたり、アルコールを注入したりして直接攻撃する方法です。抗癌剤を腫瘍に向けて注入する方法もあります。

ソラフェニブ(商品名ネクサバール)は、元々腎臓癌の薬として作られました。肝細胞癌での効果が報告され、日本では2009年5月に承認されました。今のところ、これまでの治療法で限界のある患者だけに使えます。

薬代は1ヶ月7万円程で、製造販売元のバイエル薬品によると、11月4日現在で2017人が使用の登録をして治療していると言います。

近畿大の工藤正俊教授(消化器内科)等は、6月の日本肝臓学会でソラフェニブの有効性について発表しました。平均62.5歳の患者18人に使用し、1人が完全に癌細胞が無くなり、3人が3割以上縮小したと言い、「肝機能が良い人には非常に効果がある」と話しています。

癌を大きくさせない為の薬と言い、「今のところ完治は国内で数例で、全員に効く訳ではないが、延命効果はある。新しい治療法として注目されている」と期待します。

切除手術や局所療法の後、再発防止の効果を探る治験も進行中です。工藤教授は、「有効と証明されれば、全体の6割の患者に使う事が出来るのではないか」と期待しています。

 

肝細胞癌の主な治療選択
他の臓器への転移
無し 有り
肝機能
× ×
周囲への広がり    
無し 有り
 
1~3個 4個以上
大きさ  
3cm以下 3cm超
治療法




 







 

























































+α ソラフェニブ
再発防止等について治験中
 


  出典 朝日新聞

肝癌の9割を占める肝細胞癌に効果的な新薬が、2009年5月に認可されました。癌細胞だけを狙い撃ちする「分子標的薬」で、治療の柱として期待されています。飲み薬で患者への負担が小さいのが利点です。

同じタイプの新薬は、他の癌でも次々に開発され、副作用の防止策の検討も進んでいます。

2007年1月、みぞおち付近に激しい痛みを感じ、検査で肝臓に7cm大の腫瘍が見つかった大阪府東大阪市の男性(54歳)は、「薬のお陰で、仕事にも復帰できた」と言って笑顔を見せました。彼は30代の頃、B型肝炎でインターフェロンの治療を受けていました。

切除手術や腫瘍に繋がる血管の血流を止める肝動脈塞栓術を受けましたが、半年後に肺4ヶ所に転移。07年10月には主治医から「もう標準的な治療法では無理です」と言われました。

ソラフェニブ(商品名ネクサバール)を知ったのは、そんな時でした。肝細胞癌に効く飲み薬として欧米で使われていましたが、当時、国内では未承認でした。「藁をも掴む思い」で個人輸入に踏み切りました。近畿大病院に転院し、治療を始めました。

2008年1月に飲み始めると見る見る内に効果が出ました。半年の間に腫瘍はほぼ消えてしまったと言います。今は、朝晩薬を飲み、毎月外来で治療を続けています。

一度は、「覚悟」したそうですが、「来年の息子の結婚式に行けそうや」と言って笑いました。


肝細胞癌:

肝臓から発生した癌の9割を占める。国の癌統計によると2007年の死亡者数は3万人以上。男性の患者が多く、肺癌、胃癌に次いで3番目で、男女のトータルでも3番目に多い。

B型肝炎やC型肝炎、肝硬変などの患者が、癌になる危険が高いと考えられている。


[朝日新聞]

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