肝癌 - 腹腔鏡手術、経験の差が安全左右

医師等による肝臓内視鏡外科研究会によると、平成20年12月までに腹腔鏡による手術を受けた全国の患者837人の内、大量出血などで通常の開腹手術に途中から変更したのは2.2%。出血や感染症などによる術後の合併症は9%でした。

東邦大学医療センター大森病院の金子弘真教授は、平成5年に腹腔鏡手術を始めました。「患部を拡大して見る事が出来る。出血量や合併症も少ない事が分かってきた。患者の体に負担が少ない医療が保険適用で広まれば」と期待します。

しかし、必ずしも安全が完全に約束されているとは言えません。国立がん研究センターがん対策情報センターによると、肝癌の手術全体の死亡率は、1~2%とされます。腹腔鏡は新しい技術で、医師の力量が問われるだけに、保険適用に慎重な意見もあります。

肝癌治療が専門の川崎誠治順天堂大教授は、「経験豊富な施設は問題ないだろう。ただ、経験の浅い医師と医療機関が準備不足のまま取り組んで事故を起こす事を懸念する」と話します。

平成14年に、東京慈恵会医大付属青戸病院の患者死亡事故は、前立腺癌の腹腔鏡手術で起こりました。

東京地裁は、医師の経験の浅さや準備不足を指摘し、業務上過失致死罪に問われた3医師に有罪判決を下しています。こうした経緯を踏まえ、厚生労働省は今年4月からの保険適用の対象について、先進医療と同様に、左葉の「外側区域切除」と「部分切除」に限りました。

肝臓全体の7割を占める右葉の切除についても、金子教授等は実施しています。しかし、より大きく切除する為、より高い技術を必要とするとして保険適用の対象にはしませんでした。

また、腹腔鏡手術で10例以上の経験がある医師がいる事や、消化器外科医が3人以上いる事も保険適用の施設条件として求めました。「安全な医療として普及させる為必要な措置」と厚労省医療課の担当者は話しています。


肝癌の治療:

 主なものに、①手術による治療、②体の外から長い針を刺して、針の先に発生させたラジオ波で癌細胞を焼くなどする局所療法、③癌に栄養を運ぶ血管を塞いで癌を兵糧攻めにする肝動脈塞栓療法の3種類がある。
 どれを選ぶかは、肝機能の良し悪しや癌の数、大きさを基に決める。
 東邦大学医療センター大森病院の金子教授によると、同病院の場合、手術治療の内35~40%が腹腔鏡手術。保険適用の対象で3割負担の人の場合は、自己負担は15万~18万円になるという。

 

肝癌治療の方法
肝機能の状態 A、B
癌の数 1個 2、3個 4個以上
癌の大きさ 3cm以内 3cm超
治療方法 手術、
局所療法
手術、
塞栓療法
塞栓療法
など
移植、
緩和ケア
など
  腹腔鏡による手術の対象  

  AからCの順で障害が強い