肝癌 - 生体肝移植、移植の垣根低く

健康な家族から肝臓の一部を提供してもらう生体肝移植が日本で始まって20年になります。症例は既に5千件を超え、移植を受ける対象も広がっていますが、再発の恐れがある肝癌患者では、適応基準の見直しが進んでいます。

「移植を受けた事で、それまで沈みがちだった気持ちも前向きになった」。2年前に生体肝移植を受けた滋賀県の女性(60歳)はこう話し、昨年11月の娘の出産を楽しみにしていました。

女性は、平成19年8月、京都大学病院で娘から肝臓の提供を受けました。平成15年にC型肝炎と分かり肝硬変が悪化、肝癌にもなり、医師から「移植の他に助かる道はない」と言われました。何も考えられない自分に代わって、娘が提供を申し出ました。

「お母さんには、未だやる事が残っているでしょ」。今、肝癌の再発はありません。C型肝炎ウイルスも消えました。

ただ、最初は、迷いもありました。「自分の条件が、基準から外れていたので、大丈夫なのか不安もあった」と言います。

肝癌に対して生体肝移植をするかどうかは「ミラノ基準」と呼ばれる世界基準を基にします。基準では、「癌は5cm以下が一つ、あるいは3cm以下が3個以内」という状態でなければ移植出来ません。

ところが、女性の癌は、大きさが4.9cmと1.2cmの二つで、基準外でした。

幸い、移植経験の豊富な京都大が、ミラノ基準から外れた患者も移植の対象にしようと、独自基準(京都基準)を作った年でした。主治医の海道利実助教の説明に、納得して手術を受けたと言います。

ミラノ基準は、平成8年に癌患者への生体肝移植の適応基準として、イタリア・ミラノ大学の研究者が発表しました。平成16年からは日本の保険適用の基準として用いられています。脳死移植が主流の欧州で、限られた移植の機械を生かす為、再発の可能性が少ない症例に絞って適用すべきだ、という考えが基準の下地にあります。基になった海外の移植データは、4年後の生存率が75%。

京都大学肝胆膵移植外科は、平成11年2月から18年12月に実施した肝癌の生体肝移植136例を調べました。ミラノ基準を満たした74例の5年後の再発率は9%でしたが、基準外の62例は33%と高くなりました。

日本人でもミラノ基準は妥当だと裏付ける結果でしたが、海道さん等は更に、基準外で再発した例と、再発しなかった例を分析。腫瘍の大きさや数だけでなく、悪性度が再発に関係している事を突き止めました。この事が京都基準作りに繋がりました。

京都基準は、「PIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)」と呼ばれる、肝細胞癌で特異的に上昇する血液凝固因子の数値を見る腫瘍マーカーの検査値を盛り込みました。癌の大きさが5cm未満という点ではミラノ基準と同じですが、個数を10個以内と増やし、更に「PIVKA-Ⅱ」が一定の値以下である事を条件にしています。

京都基準を満たした場合の5年生存率は86%、再発率は5%でした。基準を作った平成19年以降の36例でも再発は1例のみで、成績は良好です。

 

肝癌に対する肝臓移植の主な適応基準
ミラノ基準 5cm以内の腫瘍が1個、
または3cm以内が3個以下
UCSF(米カリフォルニア大
サンフランシスコ校)基準
6.5cm以内の腫瘍が1個、
または合計8cm以下の腫瘍が3個以下
京都大学 5cm未満の腫瘍が10個以下、
かつPIVKA-Ⅱ400mAU/ml以下
東京大学 5cm以内の腫瘍が5個以下


[朝日新聞]