ソラフェニブで癌細胞を狙い撃ち

癌治療の最先端では、ソラフェニブ(商品名ネクサバール)のように、癌細胞を狙い撃ちする「分子標的薬」の開発が盛んです。従来の抗癌剤の多くは、激しく増殖している細胞を攻撃します。その為体内で増殖が盛んな「毛根」や「骨髄」なども攻撃してしまう副作用がありました。

分子標的薬は、それぞれの癌細胞が持つ特異な「分子」を狙うため、他の細胞への影響が少ない。既に「白血病」や「リンパ腫」、「肺癌」などで使われています。

ソラフェニブには大きく二つの作用があります。一つは血管を新たに作る働きを止める事。癌細胞は激しく増殖するので、栄養を取り込む補給路の血管を作ろうとします。その作業を止めてしまう「兵糧攻め」です。もう一つは、「増えろ」という信号を邪魔して、増殖を阻害する作用です。

神戸大の南博信教授(腫瘍内科)によると、分子標的薬は、癌細胞の遺伝子変異や患者の個人差などで効果にばらつきがあると言います。事前の検査で効果的な薬を選ぶ事も大切です。

南教授は、「分子標的薬は出てきたばかりだが、将来的には殆どの腫瘍で従来の薬より効果が期待できるのではないか」と話します。

分子標的薬でも副作用はゼロではありません。ソラフェニブでは手足の皮膚に水泡やひび割れが出たり、血圧が高くなったりします。下痢やだるさなどもあります。副作用が出た場合は、薬を飲む頻度を抑える事でコントロールします。

だが、治りたい一心で、副作用が出ても薬を飲み続ける患者もいます。手足のひび割れで歩けなくなる人もいます。

国立がんセンター東病院では、2008年末から医師や薬剤師等約20人で副作用を抑える方策を練っています。薬剤部の船崎秀樹さんは、「自宅で服用し、新しい薬のため、どんな事が起きるか分からない面もある」と言います。チームでは、自宅に帰った患者に定期的に電話を入れて、様子を見ると言います。

同センター中央病院肝胆膵内科の奥坂拓志医長は、「この薬の登場で、治療が入院から外来へと変わり、どうしても患者さんとの触れ合いが少なくなる。その失った部分をどうカバーするかが今後、大事になる」と話しています。