前立腺癌 - PSA検診の功罪

PSA検査で早期に癌が見つかり、命を救える可能性があるのは確かです。一方で前立腺癌は進行が遅い為、放っておいても害を及ぼさない場合もあり、年齢などによっては様子を見る選択もあります。

前立腺癌以外の原因で死亡した人を調べると、70歳を超えると2~3割、80歳を超えると3~4割が前立腺癌に罹っていると言います。米政府の予防医学作業部会は、75歳以上にPSA検査を勧めていません。

日本では、前立腺癌の患者数は約4万人と、PSA検査の普及に伴い年々増えていて、約9割が65歳以上です。

PSA検査で陽性と出て前立腺に針を刺して組織を調べる生検をしたものの、結局、癌でなかったという場合もあります。また、治療の必要がない「温和しい癌」でも見つかったからには取りたいという人もいます。但し、手術した場合、勃起障害や尿漏れなどの後遺障害が残る恐れがあります。

米国では約20年前からPSA検査が広まり、現在は50歳以上の約8割が検査を受けています。治療法の進歩もあり、この間に死亡率が36%減少しました。一方で、本来必要のない治療を受けた人も約100万人いると指摘されています。

PSA検診を推奨してきた米国対がん協会は昨秋、方針を転換し、「検診の利益が過大視されていた」と、反対の立場を表明しました。PSA検査法を開発した米アリゾナ大のリチャード・アブリン教授も今年3月、検診に異を唱える論文を米紙ニューヨーク・タイムズに投稿しました。

欧州泌尿器学会は、「根拠が不十分」と以前から評価しており、住民検診として導入している国は現時点では世界的にもありません。
日本では、厚労省調査によると、全国で900市区町村が独自に住民検診をしています。

東北大の坪野吉孝教授(疫学)は、「検診は健康な人に行うのだから、メリットがデメリットを大きく上回る必要がある。PSA検査は、集団に一律に行う検診としては不適切だろう。個人的に受ける場合も、医療従事者と相談して受けるかどうか判断すべきだ」と指摘します。


約40年前に、前立腺癌の早期発見法として最も一般的なPSA(Prostate Specific Antigen、前立腺特異抗原)検査法を開発した米アリゾナ大学のリチャード・アブリン(Richard Ablin)教授は、この検査法の有用性は小さく保険財政を圧迫しているとする指摘を米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿しています。

また、米国がん協会は、1990年代から前立腺癌の標準的な検査法になっているPSA検査を推奨はしていません。前年に米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」に掲載された2つの研究の予備的な結果を受け、PSAのリスクと限界について患者に説明するよう医師たちに強く呼び掛けています。

同協会によると、PSAは治療介入が必要な進行の早い癌と進行の遅い腫瘍を区別することが出来ません。後者の場合は、患者の年齢にもよりますが、死因にはならない可能性があります。

更に、PSAでは誤診の可能性もあると言います。PSAレベルは、前立腺腫瘍が大きくなると跳ね上がるとされますが、患者の年齢とともに前立腺が自然に肥大した場合も値が上がと言います。

アブリン教授によると、米国人男性の内、前立腺癌と診断される割合は16%ですが、その大部分は進行が遅く、死に至るのは僅か3%だそうです。

教授はまた、PSAの年間費用は少なくとも30億ドル(約2700億円)に上っていると指摘しています。