前立腺癌 - PSA検診の有効性

前立腺癌を見つけるPSA検診の有効性に学会と厚生労働省研究班の評価が分かれています。癌を早期発見出来る一方、治療の必要がない癌も見つかる為、不必要な検査や治療を受ける人もいます。半数の自治体が住民検診に導入しており、議論の行方は影響が大きいようです。

今年4月上旬に東京都内であった日本泌尿器科学会セミナーで、群馬大泌尿器科学の伊藤一人准教授は、「ヨーロッパで行われた大規模な臨床試験の結果に拠り、PSA検診で死亡率の低下が確認されました」と、発表しました。

昨年3月、世界的に権威のある米医学誌にPSA検診に関する論文が載りました。検査を受けた集団の方が受けなかった集団に比べ、9年後の死亡率が20%低かったそうです。
同学会が全国の自治体に向け作成した指針は、この論文を取り上げ、「PSA検診の前立腺癌死亡率低下効果が確定的となった」と紹介しました。

この医学誌には、同時にもう一つの論文が掲載されました。同じ方法で行った米国の大規模臨床試験の結果では、死亡率に差はありませんでした。
伊藤准教授は、「検診を受けない集団」の内、結局半分の人が検診を受けてしまっていた事などを理由に挙げ、この論文については「研究の信頼性が低い」と説明します。

住民検診など集団検診の有効性は、全体の死亡率を下げるという利益が、癌でない人などが必要でない診断や治療を受ける不利益を上回るかどうかで決まります。前立腺癌のPSAへの評価は、専門家の間でも分かれてきました。
厚労省研究班は3年前、前立腺癌検診の指針を作成し、「PSA検査は、死亡率減少を示す証拠が不十分」で、住民検診を勧めないと結論付けました。
日本泌尿器科学会は、指針作成の段階からこの方針に反対。研究班に参加していた泌尿器科医5人が、途中で抜けるという事態を招きました。

今回の論文発表を受け、研究班は再び指針の内容について検討しています。年内に改めて、新たな方針を公表する予定ですが、研究班長の垣添忠生・国立がん研究センター名誉総長は、「論文の結果は、確定的と言えない。住民検診として導入するのは、時期尚早ではないか」と指摘しています。

 

前立腺癌診断の流れ
PSA検査(採血)
<陰性>
PSA<4ng/ml
グレーゾーン
PSA 4-10ng/ml
【陽性】
PSA>10ng/ml
2次検査
(超音波検査、直腸診)
<陰性> 癌の疑い有り
前立腺針生検
<陰性> 【陽性】
経過観察 前立腺癌


[朝日新聞]