EGFR遺伝子変異とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤=EGFR-TKIによる分子標的治療

所謂抗癌剤は、癌細胞のDNA合成や細胞分裂などを阻害する事で癌細胞を死に至らしめます。しかし、細胞分裂は正常な細胞でも起こりますから、癌だけを殺すという訳にはいかず、一般に副作用も強い事が多いのです。
これに対して、癌を特徴付けているある特定の蛋白質(例えばEGFR)に作用し、正常な細胞には作用し難いようにして作られた薬を分子標的治療薬と呼び、より少ない負担で高い効果を上げられる事が期待されます。

EGFR-TKIは、EGFRのチロシンリン酸化酵素を阻害する代表的な分子標的治療薬であり、EGFRの信号経路を断ち切る事で肺癌をやっつけようという訳です。平成14年以来、我が国でも多くの肺癌患者に使用されてきました。
この薬の効き目は、しばしば劇的で、使用開始後2週間で癌が縮小したり、呼吸困難や咳が改善する患者も稀ではありません。

EGFR-TKIは、肺癌の中でも腺癌、女性、非喫煙者、またはアジア人の患者に効き易い事が分かっています。このような患者はEGFR遺伝子変異を持つ割合が高い事から、EGFR-TKIによる効果が得られる可能性が高い為です。また、男性や喫煙歴のある患者でもEGFR遺伝子変異があれば、その効果が得られる可能性が高い事が分かってきています。

一方、アジア人の非(軽)喫煙者の腺癌といった良い条件が重なっていても、EGFR遺伝子変異が無い場合は、その効果が得られる可能性は低い事が分かっています。

最近の試験結果では、EGFR遺伝子変異のある肺癌患者にEGFR-TKIを用いた時と、これまでの標準であった化学療法で治療した時を比較すると、EGFR-TKIの方が、癌が小さくなってから再び大きくなる迄の期間を延長させる事が示されています。

一方で、EGFR遺伝子変異の有無に関わらず、EGFR-TKI投与によりかなりの患者にニキビ様の皮疹や下痢、肝機能異常などの副作用が起こります。時に死亡率の高い間質性肺炎が起こる事もあります。