大腸癌治療 - 新薬、高額な医療費が課題

アービタックスやベクティビックスの抗癌剤が注目されるもう一つの理由が、大腸癌で初めて遺伝子検査で効果を事前に判定する「個別化治療」が可能になった事です。目印の癌細胞の遺伝子が変異している人は、これらの薬も効かず、大腸癌患者の3~4割はこのタイプだと言います。
この研究結果は、平成20年に米国の学会で発表され、その後欧米では、抗癌剤を使う前の遺伝子検査が必須となりました。日本でも今年4月に漸く、公的医療保険で検査が認められました。3割負担の場合は、6千円の自己負担となります。

国立がん研究センター東病院(千葉県)消化器内科の吉野孝之医師が、保険適用前に実施した調査では、アービタックスの使用前に遺伝子検査をしていた医療機関は、12%に過ぎませんでした。
「これまでは、抗癌剤が効かない人にも投与されていたが、保険適用により、こうした無駄がなくなる」と吉野医師は指摘します。

ただ、分子標的薬には、高額な医療費という問題もあります。例えば、身長165cm、体重60kgの患者が「FOLFIRI療法」と呼ばれる従来の治療法を行うと、月約18万円(3割負担で約5万3千円)に上ります。これにアービタックスを上乗せすると月約91万円(同約27万円)で、治療期間は数ヶ月から時には1年以上にもなります。大腸癌には、この他、アバスチンという分子標的薬もあり、ベクティビックスも含め、いずれも高額です。

医療費の負担が多い場合、後で払い戻しを受けられる「高額療養費制度」が利用出来ます。一般所得世帯(概ね年収600万円以下)の人が約27万円を負担した場合、この制度を利用すれば約19万円が払い戻されます。しかし、月約8万円でも負担は重いのです。

癌研有明病院化学療法科の水沼信之消化器担当部長は、高額な分子標的薬を使いこなすには、効き目がある人を更に遺伝子で絞っていく研究が不可欠だと言います。
ただ、「高額だから使わないというのは間違いで、新しい薬を使う事で医療も進歩する。薬の選択肢が多い程市場原理も働き、将来的には価格も下がる可能性が高い」とも指摘しています。


大腸癌の個別化治療の仕組み:

 癌細胞は、勝手に増えたり、周りに新たな血管を作り栄養を取り込もうとしたりする。分子標的薬は、この増殖に関わる伝達経路を遮断する仕組みの抗癌剤。
 この伝達経路で重要な役割を担う遺伝子が変異していると、幾ら遮断しても効果が無く、勝手に癌細胞が増殖してしまう。

 

抗癌剤の個別化治療の流れ
大腸癌の組織を
遺伝子検査
遺伝子情報
を分析
遺伝子の
変異無し
分子標的薬
を使用
遺伝子の
変異有り
使用せず