癌治療 - 副作用で食欲が無い

抗癌剤や放射線などによる癌の治療中に、色々な副作用が起き、食欲が無くなって、食事が出来なくなる人が少なくありません。栄養不足に陥った患者に対して、従来のような点滴ではなく、胃にチューブを通すなど腸経由で栄養補給(経腸栄養)する事により乗り切る手法が広がっています。治療成績が上がったり入院期間が短縮したりする事も報告され、注目を集めています。

千葉県に住む医療事務職員の女性(49歳)は、平成20年3月、「上咽頭癌」と診断されました。鼻腔の奥の部分で、脳に近く、耳などの神経もある為手術は難しく、放射線主体の治療が標準的です。国立がんセンター東病院で放射線と抗癌剤を同時に受ける事になりました。

放射線の照射は33回。7週間にわたり、週末以外は毎日、照射を受けます。治療を始めて2週間後に、食べ物の味が分からなくなっていました。放射線の影響で唾液腺が萎縮し、唾液が出難くなったからです。抗癌剤の副作用で、吐き気も酷くなりました。

食事を口に運ぶよう努力しましたが、難しかったそうです。栄養が足りない分、毎食、治療開始前に作った「胃瘻」から胃に直接、栄養剤を入れました。

放射線照射で進んだ唾液腺の萎縮によって、鼻や口の中の乾燥が強まり、息苦しさも酷くなりました。日増しに照射が辛くなりました。32回目の時、治療室の近くに来ただけで、涙が溢れ出ました。

「もう限界。これ以上は耐えられない」

彼女の話を1時間半、別室で聞いてくれた看護師が、こう言いました。「ここで治療を止めたら後悔するよ」。その一言で、残り2回の照射を受ける決意をしました。

彼女は、治療終了の2ヶ月後に職場復帰。最近は、少しずつ体重も戻ってきています。

放射線と抗癌剤を組み合わせた化学放射線療法を辛く思うのは彼女だけではありません。それでも東病院では、上咽頭等の頭頸部癌でこの療法を受ける患者の殆ど全員が治療を完遂します。

東病院の全田貞幹医師(放射線科)によると、完遂率が上がったのは平成15年以降。それ以前の統計はありませんが、推定7~8割の完遂率でした。途中で2週間程放射線治療を休んだり、照射回数や抗癌剤の量を減らしたりする事もよくあったと言います。

放射線の副作用で味覚に異常が生じたり唾液が出なくなったり、口や喉の粘膜に炎症が起きて飲み込むのが痛くなったりします。抗癌剤の副作用で吐き気がする事もあります。化学放射線療法を受ける人の8割は、口から十分な栄養が摂れなくなります。すると、衰弱して強い治療に耐えるのが難しくなります。


[朝日新聞]