「40代女性に、乳癌のマンモグラフィー検診は推奨しない」
米国政府の予防医学作業部会が出した勧告が、日本でも波紋を呼んでいます。40代は、擬陽性と出る割合が高く、検診の「利益」より「不利益」の方が大きいと言うのが理由です。
しかし、40代で乳癌になる率が高い日本は、米国と事情が異なります。厚生労働省も今年2月下旬、米国に専門家を派遣して、現状を視察しました。
昨年11月、米国政府の作業部会が出した勧告は、乳癌のマンモグラフィー検診(乳房X線撮影)を従来の「40歳以上に1~2年に1回実施」から、「50~74歳に2年に1回実施」に改めました。
40代に検診を勧めない理由として、検診で「癌の疑いがある」とされたが、その後の精密検査で、癌でないと分かる擬陽性の割合が高い事を挙げました。
不必要な検査による精神的苦痛は「不利益」で、検診で死亡を防げる「利益」を上回ると言う考え方です。
乳癌検診の第一人者、国立病院機構名古屋医療センターの遠藤登喜子放射線科部長は、今回の勧告の背景には、日本と米国の医療体制の違いがあると見ています。
「日本では、画像で良性か悪性か分からない場合に、経過を見るという選択肢もある。訴訟社会である米国では、その後、癌が見つかった場合は、訴えられる可能性もあり、過剰検査に陥り易い」と説明します。
作業部会は、勧告の根拠として、世界各国の臨床試験のデータを集め、「1人の乳癌死亡を防ぐのに何人の検診受診者が必要か」を試算しました。
それに拠ると、39~49歳では1904人なのに、50~59歳では1339人と少なく、60~69歳では377人となりました。また、40代で擬陽性が出る確率は、50代以降より約60%高いとしました。
しかし、高齢になるにつれ乳癌になる割合(罹患率)が上がっていく米国とは異なり、日本では40代後半が最も乳癌になり易いのです。
国立がんセンターの祖父江友孝がん情報・統計部長は、作業部会の結果を基に、日本と米国の乳癌死亡率で補正し、1人の乳癌死亡を防ぐのに必要な検診受診者数を試算しました。
その結果、39~49歳は2418人、50代は1983人、60代は852人となり、米国に比べ年代別の差は小さくなりました。米国より死亡率が低い為、人数は多くなりました。
祖父江さんは「米国政府の作業部会の勧告は、検診の不利益が無視されがちな風潮に警告を出すのが目的だと思う。しかし、検診による不利益への感じ方は、人により異なる。一方で、検診により、癌死が減らせるという事実は重い。その点を考慮すれば、40代も検診の対象にすべきではないか」と話します。
実際、米国でも癌協会や放射線医学界は、「引き続き40代のマンモグラフィー検診を勧める」と声明を出し、今回の勧告に反対しています。
年齢 | 米国 | 日本 |
---|---|---|
39~49 | 1904人 | 2418人 |
50~59 | 1339人 | 1983人 |
60~69 | 377人 | 852人 |
[朝日新聞]