遺伝子を調べて抗癌剤選び - 副作用は最小限

「薬は効きそうか」、「強い副作用の恐れは無いか」
患者の遺伝子情報を調べて、個々の状況に応じて治療の仕方を決める「個別化治療」が、抗癌剤の領域で少しずつ広がっています。不必要な薬の副作用に苦しまなくて済むといった期待がありますが、実用性には限界もあります。

大腸癌がリンパ節に転移した男性が、週に1度国立がんセンター東病院に通い、抗癌剤治療で使用している薬は、国内で2008年9月に導入されたセツキシマブ(商品名アービタックス)で、癌細胞が増殖する仕組みを邪魔する分子標的薬です。

男性は10年前に大腸癌の手術を受け、3年前に再発。色んな抗癌剤を試したが、どれも行き詰まっていました。セツキシマブが男性に効きそうなことは、ある程度予想できました。事前に遺伝子検査を受け、効くタイプの癌と分かっていたからです。

検査には以前に手術で取り出した癌組織を使いました。細胞中にある「KRAS(ケイラス)」という細胞増殖に関わる遺伝子が、変異を起こしていないかどうか調べたところ、男性に変異はありませんでした。

海外の臨床試験で、KRAS遺伝子に変異があると、セツキシマブを使っても治療効果が殆ど見込めない事が分かっています。「変異があると、治療中の生存期間が変異がない場合の半分以下」とする報告もあります。

病院は国の認定を受け、「先進医療」として5月にこの検査を始めました。検査費用8万円は自己負担ですが、それ以外の治療は保険が使えます。大腸癌患者でKRAS遺伝子に変異があるのは、全体の3~4割で、変異があればこの薬は使わない方針です。

海外では欧州連合諸国や韓国など多くの国で、KRAS遺伝子に変異がない事が大腸癌の治療で使う条件になっており、米国も臨床腫瘍学会などが、KRAS遺伝子検査を推奨していますが、日本では未だ条件になっていません。

がんセンター東病院消化器内科の吉野孝之医師は「効果が無ければ、副作用に苦しむだけで、治療費も無駄になってしまう。国内でも早く、保険で検査を受けられるようになって欲しい」と話します。


[朝日新聞]